こんにちは 介護職員連絡会です。
私たちは施設で働く介護職員です。上越老人福祉協会の各事業所に勤務する介護職員約222名が所属しています。高齢者ケアの中心を担う専門職としての資質向上を目的に、研修を企画し、事業所間の情報交換を行い、お互いに切磋琢磨することを目的に運営されている会です。
さて、施設で生活される高齢者の中にも認知症の方はたくさんいらっしゃいます。私たちはもっとも身近な存在として、利用者と共に泣いたり、笑ったり、時には子供になり、時には恋人になり、時には生徒にもなり、認知症の高齢者の世界で生活を支援することが私たちの仕事です。しかし、介護の専門職であっても、時にはその行動が理解できず苦しむことがあります。そんな時は、関わりから得たヒントを共有し、知恵を出し合い、工夫をしながら介護をしています。毎日が研鑽の場です。
これまで介護職員連絡会では、介護エピソードを文集にまとめ発行してきました。毎日の仕事は感動ばかりではなく、うまくいかないことや、混乱状態の利用者になすすべもなく、ただ付き添うことしか出来ないこともあります。それらの経験をまとめ、自身の介護を客観的に振り返るためのエピソード集です。介護は決して一人でするものではありません。孤独であってはいけないと思います。介護に携わる全ての人が、さまざまな想いを共有し、支えあえることができることを願ってエピソード集の一部を紹介します。
文責 本町楽寿の家 渡辺久子
今日、職員が腰を痛めた。
聞くところによると昨日某ファストフード店でゲームをしていたのだそうだ。それも職員仲間3人と。ウィンタースポーツ花盛りのこの時期に外にも出ずに、内にこもって黙々と対戦型?ゲーム。今どきといえば今どきの若者。体温が低くて青白い顔。腰も痛めるわけだ。
だけど、利用者のおむつを替え、入浴介助をして、愛想はないが以外にも柔らかな眼差しを注ぐ。はぐった布団をきちっと三つ折りにし、動作もソフト、利用者の彼氏役にもなる。
「私、いかにらくして楽しく仕事が出来るかが大事なんです。」と言い切る女の子。浮かびそうな疑問符は、利用者を見つめる眼差しでじきに打ち消され、そうだよね、私たちも楽しくないと良い介護は出来ないよね。楽な介護も大事な事だ。「愚痴ってもいいですか?」と自分の言うことを愚痴と前置きしてから話してくれるところが切ない。
仮面ライダーオーズに登場する金髪の若者。左右非対称の茶髪パーマ。その人と同じような髪形をして、女性用のデオドラントシートで汗を拭きとる男子。「お疲れ様デース♡」そんな人が、おむつ交換を強く嫌がる利用者に、誰よりも早く嫌がられない方法を生み出した。名付けて「○○作戦」。布団をはぐらず、足元からもぐりこみそのまま交換すると嫌がられずに出来るという。夜中に布団をはぐられれば誰だって寒いし嫌だよね。良く気づいた○○作戦。拍手。
ゲーム青年や茶髪パーマの青年が、懸命にオムツ交換をしていて、いかに楽しく仕事が出来るかを考えつつ利用者が大好きな女の子がいる。利用者から腹をなでてもらっている新しい命が宿った妊婦さんがいて、肩書があって背負うものが沢山あるお父さんたちがいる。人生の終わりに近づいている人、灯が消えるのも近い人…。そんな、「人」の生きる過程が凝縮したようなところに「人」が集うことはいいことだ。職場であり、施設であり、老人福祉施設であるけれど、そこには人と人との生のかかわりがいくつも生まれ、温められその人の深い所で力となる。時に打ちのめされることもあるけれど、そんなこともひっくるめ「人」に関わることが出来るというのは幸せなんだと思う。ある人が「人生の贅沢は人間関係だ」と言っていた。私の周りにいる茶髪やパーマの「人」たち、顔色の悪い「人」たち、楽しい仕事をしたい「人」たち、人生の終焉を迎えようとしている「人」たち…そんな「人」から力をもらい、そんな「人」に支えられながら今の私がいる。ありがたい。
雪が降ってきた。外は白くなり遠くが見えない。その雪を見て帰りの心配をする利用者、黙って外を見つめる利用者、「ひと」それぞれ降り積もる雪を眺めて何を想っている事か。今日も一人の利用者が逝った。とてもきれいな良い顔をして。 合掌。
「介護の仕事をしている人たちを通して思うこと」
平成22年度発行「共」から
ある日の出来事…。介護職員が一人の女性利用者を囲んで楽しそうにしている。どうしたんだろう…楽しそうに。みんな満面の笑みを浮かべて利用者と会話している。
理由を聞くと、その女性利用者は便秘気味の為、前日から下剤を内服していた。ベッドで横になり残念ながらタイミングが合わず、便失禁していたそうだ。しかし、本人は「赤ちゃんが生まれるー」と訴え、その利用者の声に同じ目線で職員が関わった。本人が力むうちにお腹の痛みが消えたらしく「あー、赤ちゃんが生まれた」と…。職員は思わず、近くにあった赤ん坊の人形をそのおばあちゃんに手渡した。
女性利用者は下剤による下腹部痛を陣痛による痛みと同じ、便失禁を破水と思い込んだようだ、と職員から聞いた。食事中は、そのおばあちゃんが生んだとされる人形を職員が抱き、心配そうに顔をのぞき込んだり、姿が見えなくなると「赤ちゃん、どうした?」と探すような素振りをする。また、午睡の際は赤ちゃんを寝かしつけるような行動をし、入浴の際にはその赤ちゃんを胸に抱き浴室まで来られた。この場面では、自身でお乳を飲ませようと必死に人形の口を自身の乳首に近づけ「あら、吸わないわ。いらんのかね?」と。
その様子や言動、そしてその温かい雰囲気や空気感に職員が一喜一憂しながら、そのおばあちゃんと関わっていた。
介護職員の人材不足や離職率の高さが話題となっている現在。
私自身も年齢を重ねた。利用者を様々な視点から支えることは体力的にも精神的にも厳しくなってきている。しかし、私が14年間、介護職員を続けてこられたのは今回のような楽しい出来事に携われること、また楽しい場面だけでなく悲しい出来事に遭遇でききること…それを日々一緒に働いている職員達と共有し合えることが理由なのではないかと思う。また、利用者を中心に職員が利用者の思いを汲み取った関わりをし、その場面の中で利用者と職員が触れ合いながら寄り添っている職員達を目にすることは、このうえない楽しみとなっていることも多い。それが「介護」という人を支える仕事を続けられる大きな理由のような気がする。人を支える仕事ながら、利用者との出来事に支えられている自分がいることもひとつだ。
今後もいろんなことを共有しながら、仲間たちと一緒に利用者の生活を支えるために利用者の思いや考えに寄り添いながら関わっていきたいと思う。
「介護職員が続ける事ができる理由」
平成22年度発行「共」から